初めの話 〜まさにAB OVO〜
それでは初めから。
AB OVO
はじめを飾るのにこれ以上ふさわしい言葉はないだろう。
このラテン語を知ったのは米原万里『旅行者の朝食』の第一話「卵が先か、鶏が先か」の中。
(https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167671020)
作者がロシア語・日本語同時通訳者として活躍していた中で、ヒヤヒヤな体験をすることになったきっかけがこのAB OVO。直訳すると「卵から」という意味なのだが、そこから派生して「最初から」という意味になる。
炒り卵を自称する私にぴったりではないか。
何かを綴ろう、というより書き留めよう、と私に思わせたのが上述のエッセイ。軽めの文体でスイスイと読み進められるのに、読んだ後には食べ物に関するとんでもない量・質・内容の知識を得られる本。AB OVOだけでなく、ウォトカの出生年やそれにまつわる政治的ゴタゴタや、レストランでの食事のサーブの歴史、そしてタイトルにもなった「旅行者の朝食とはなんぞや」などニッチなテーマを取り扱っているが、全く疲れさせない。面白すぎてどんどん読めてしまう。さらに出典や調べ物に使った文献のタイトルまであげているので、そこら辺を覗き始めると読んでいるだけでは足りなくなるのである。
メモを取らないと、書き留めないと。
こうなるともう止まらない。しばらく離れていた「調べ物」を始めて、気づいたら3時間経っていた。文献リストも増え続けた。こうやってインプットを続けていたら、吐き出す場所がないことに気づいた。研究者でもない、作家でもない。知識と活字を入れ続けた結果、限界が来たのである。
卵が割れる。
テーマや分野を設定しないで興味の赴くままに。そんなことを考えていたら、純度100%の文系だが、今になって自然科学にも興味が出てきてしまった。理解できないのは百も承知。しかし知識としてこの世に存在しているのに知らないままでいるのはもったいない。そう思ったら、
「願わくば、全知全能」